ニューミュージック・マガジン 1970年1月号

おまけに戻ります

レターズ P124より

ぼくはただロックの肩持つだけ...

 今がちょうど"赤鼻のトナカイ"なんかが街に流れ出す頃だとして、そんな中を歩いて行って、十八世紀風な木の看板にロックをやってるなんて書いてある店を見つけて「今日はこれを見つけるために目を覚ましたんだ」と思い込みながら扉を開けたら、トラフィックが"No face No name, No number"なんて唄ってたとしたら、これこそすてきな時というやつですね。

ロックは少なくともこの一年、他のどんな音楽よりもぼくにこの"すてきな時"をプレゼントしてくれたんですから。

他にだって例えば、朝、アパートでいつもの様にとなりの部屋のやかましいラジオに起こされたら、なんとそれがジェスロ・タルの仕業だったりすれば

、それは幸せな一日の始まりと決ってるのです。

でもね、ぼくがさっきの店にまだ座って次にかかったレッド・ツェッペリンなんか聴いていたとして、言いたくないけどジョン・レノンが落ちぶれて、昔と同じ服をまだ着てるみたいな怖い顔のままぼくたちに向って「ユーの好きなグループ何?」なんて戦闘開始したらヤバイなって時々心配になるんだな。

ぼくはその時、さっきの20倍は言いたくないけど「レッド・ツェッペリンです。」って言っちゃうだろうし、そうなれば彼は「しめた」と思って、ヨレヨレになった彼の"ニュー・ミュージック・マガジン"から目を上げて「彼等の何が? 肉声化された魂の叫び? それは真のレボリューションを喚起し得ると思うんだ、どう?...」といった類のわけのわかんないことを言ってぼくがもう親友になったと思い込むだろう。

誓って言うけど、ぼくはこの人と出来れば一生の間話しなんかしたくないし、喫茶店で同じテーブルに付くのだって御免だな。

 ぼくがロックを好きなのは、正にこの所が肝心なんだけど、彼のインチキな耳には決して聴こえないだろう"現実感"に溢れた音でぼくに"すてきな時"をプレゼントしてくれるからなんだ。

現実っていうのはさっき言ったみたいに、喫茶店のドアを開けた時に自分を包みこむ物や、朝、目を覚ました時の感じやなんかの事だけど、彼が聴きたがっているのは現実の音じゃなくて、創造や破壊や絶対なんかの有りもしない音だと思うな。

革命でも解放でも彼が言う時は同じだよ、悪いけど。

ぼくが「いい人だな」って思うような人なら、ジャズが彼等のインチキで塗り込められちゃった時の事をきっと面白おかしく話してくれるよ。

だってそれ以外に何が出来る?いい人っていうのはね、相手をイヤな奴だと思っていても、それを知られるのをとても怖がるような人間なんだ。

それからぼくが皆さんに言いたいのはね、もし喫茶店で向い合ったのがイカした女の子だったりして、彼女のバックからブラッド・スウェット・アンド・ティアーズのレコードがちょっぴりのぞいていても、彼女がもう一人の女の子にそのレコードがジャズにひけを取らない演奏で、どんなに、ジャズっぽいかなんて話していたら、彼女に話しかけるのはやめる事だな。

遅かれ早かれ「アル・クーパーの非妥協的な面が大好きよ」って言い出すに違いないし、そうなったら「舌噛んで死んじゃいたいくらい」なんて付け足したって、ウンザリしないためにはもう手遅れなんだから。

 忘れて欲しくないのはね、ぼくはロックがいかに優れた音楽かについて興味があるんじゃなくて、ロックの肩を持ってるだけなんだ。

 それから今までの話と関係ないけれどぼくが本当に一番好きなのはビートルズ、一番好きな作家はそうサリンジャーですよ。

さようなら。

東京都世田谷区 松平維秋 (ブラックホーク・DJ)

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